心を自由にするドラマセラピー ユーモアと希望

エレノアとのセッションの最終回です。

ユーモアが辛い現実と向き合う力になる

発展的変容では、セラピストはクライエントの「プレイ・オブジェクト、遊ぶ対象」であるという位置づけをしている。私は、エレノアが「サチで遊んでいる」という感覚を持てるように気を付けていた。そしてこの役割から外れないように、自分自身の気持ちの変化にも注意し、エレノアの言葉を上手に使いながら、常に笑いが伴うやりとりを展開させた。

 エレノアとの発展的変容は、恋愛や身体的な限界など、彼女が苦しんでいたことをテーマに変化するようになっていった。
遊ぶのには苦しすぎる内容が“Playable”(遊べる)になり、彼女は、自発的に創造的に、現実を見つめることができるようになっていたのだろう。犯罪加害者との発展的変容セッションにおいて、実際に暴力的シーンを「遊ぶ」ことで加害者から暴力性が軽減したことが報告されているが、それは想像する力を発達させることで可能になったと思われる。(Landers,2002)
同様に、エレノアも想像する力を遊びの中で育ていったために、怒りや葛藤が解消されていったのかもしれない。
現実は変わらなかったが、エレノアが自分の気持ちを正直に表現できる場を持ってから、彼女は笑って過ごすことができるようになった。

(シーン例2)

 E:こんな手なんて、いらない!捨ててしまいたい

 S:分かった。じゃあどうやって捨てようか?うーん、どうしても手がはずれない!

  (手をはずそうと二人で色々な手を試す)

 E:(笑いながら)どうやっても、本当は、はずれないの。

私と、ずっと、一緒に、いるから

 S:ずっと?どのくらい?

 E:91年!

 S:そんなに長く!・・・疲れているかな?

 E:そうだね、疲れているみたい。キスして、あげなくちゃね

 

 ドラマセラピーのセッションでは、必ずと言っていいほど毎回笑いが起こる。私はこのユーモアこそが、辛い現実や問題に対峙する力を与えてくれるのではないだろうかと考えている。

 

死を受け入れることで生まれる希望

 エレノアとのセッションが7ヶ月たったころ、私たちに大きな変化をもたらしてくれたウィルが施設を出た後自殺したというニュースを受け、私がエレノアに伝えることになった。
「自由に楽しく生きている」という印象のウィルは、エレノアにとって「生」を象徴しているような存在であった。
そのウィルの自殺により、彼女は一番恐れていた「死」と向かい合うことになった。
エレノアは何度も自殺をしたいと訴えてはいたが、本心では死を恐れていた。
ウィルの死により、彼女は言いようのない深い悲しみの中に沈んでしまった。
この悲しみは、私が今までに出会ったことのない怒りを全く伴わない深い悲しみで、今でもそのときの様子を思い出すと胸が痛くなってしまうほどだ。ウィルの死を伝えたとき、私は彼女が静かに泣くそばにずっと座っていた。
ウィルがドラマセラピーに参加したことは一度もないが、ウィルはなぜか私たちのセッションには欠くことのできない人物であった。

「死のない世界。誰も、死んでない。死のない世界を、ちょうだい」

彼女の言葉は否認のようでもあったが、私は彼女の気持ちに添うことにした。
その日のセッションで、私たちはこの世には死などないと決めた。しかし逆に言えば、「死」という概念がなければこの「死のない世界」は成立しない。私には彼女が「死」を創造的に受入れようとしているのが分かった。

 次のセッションで、エレノアは私に一緒に絵を描きたいと言ってきた。
彼女はまず大きな男の絵を描いた。そして彼女の言うとおりに色を塗っていくように私に指示した。彼女が描いたのは、フランクという施設にいた大男のマッチョな介護へルパーだった。その日彼女は始めて出会ったときのように、私をコントロールするかのように命令を下してばかりだった。
おそらく彼女は、彼女の方法(アート)で、自身の強さを強い男のイメージを通して私に証明する必要があったのだろう。

 その後3ヶ月にわたり、私たちは、生と死をテーマにした発展的変容を行うようになった。私がエレノアの母親になったり、エレノアが私を食べてしまうなどの内容が多かった。

(シーン例3)

E:いい母親になって。私は、今日から、あなたの、赤ちゃん

S:まあ。私の赤ちゃん

E:ママ・・・私の髪をとかして

S:もちろん

E:ママ・・・(泣く)

E:でも、赤ちゃんは、自分の道を、見つけなくちゃ

 

 エレノアは私を食べたり、私の赤ちゃんになることで、彼女の今まで歩んできた人生を統合し、死を迎え入れる強さを得ようとしていたのかもしれない。

 ちょうどその頃、エレノアの家族がカストロにある彼女の持ち家を売りに出すことになった。もう一度住みたかった家だったので、彼女は家族にとても腹を立てていた。
私は新しく家に住む人を選ぶためのオーディションのシーンを繰り広げた。私がホームレスになったり、意地悪な人になったりして、エレノアの家に住みたいと訴えてみると、エレノアはNO!と力強く言い放った。
そして、エレノアは、彼女の特別な家には、彼女の選んだ人しか住むことが出来ないとはっきり語った。家族に見せることができなくなってしまった彼女の威厳が、そこにはあった。
セッションの最後に、私は彼女の希望通りの教師の役をとり、「この家を大切にします」と彼女に約束した。その後エレノアは、最近新しくリフォームされてしまった家を実際に見てきた話をし、昔の方がよかったと私に言った。

「Old is Beautiful!!あの家は、もういらない。この場所のほう(施設のこと)が今の私は好き」
こんな言葉が、彼女の口から出てくるなど信じられなかった。
私たちは“Old is Beautiful!”を大きな声で何度も繰り返してセッションを終えた。

 

E:私には何にもない、家も、何にも。体も、動かない。何にもないのに、どうして、何にもないことで泣くのでしょう。(“I have nothing.  Then why do I cry for nothing?”)

 

「死」と向かい合いながら一瞬一瞬の気持ちを表現することは、私に有限の世界で無限に続く何か見えないものの力を感じさせた。彼女はもはや、「何もできない、何の価値もない人間」ではなくなっていた。
彼女の一言一言は、若い私にとっては非常に価値のある、意味深いものであったし、おそらく彼女も自らの価値を見出していたのだろうと思う。

 最後のセッションで、エレノアの提案で画用紙に一緒に絵を描くことになった。エレノアが迷路のような線を描いたので、私もエレノアの線に沿って描いたり、好きな方向へ線を引っ張ったり、色を変えたりと、私たちは無言でたくさんの線を画用紙にいっぱい描き続けた。

 

E:サチ、あなたは、この場所で、私に起こった、一番、嬉しい、こと

 

 その言葉は、エレノアから私への素敵なプレゼントだった。
そして「この絵をあなたとの思い出のためにとっておく」と彼女は言った。
私はエレノアとのセッションが一年間という契約の上にあったことを正直とても淋しく思った。
最後にエレノアは一人で絵を描いた。

 

E:これは、あなたと、私。キスしようとしているけど、恥ずかしいから、やめたとこ

 私は、人が、見ていたら、キスできない

 まるで、私たちが一緒に歩んできた道のりをそのまま画用紙に移したようにも感じられた。
E&Sとサインした2枚の画用紙を見ながら、エレノアは「コラボレーション」と言って笑った。

 エレノアは、まだインターンだった私の最初のクライエントとして私に自信を与え、セラピストとしての成長を助けてくれたのだと思う。彼女との一年間のセッションは、今でも私を支える宝物であり、私は彼女に出会えたことを本当に感謝している。エレノアは、私が日本に帰ってきてからすぐ、最後のセッションから一年経たないうちに、平和に穏やかに亡くなったのだと同僚の知らせで聞いた。

 

あなたと私のコラボレーション

現在私が行っているドラマセラピーのワークショップには、ドラマの経験のない社会人の方が多く参加してくださる。
ドラマは遊びの一つであり、遊ぶことは誰にでも備わっている能力とはいえ、遊ぶ機会があまりない大人には、想像の世界に入っていくことが難しい。そのときに私は絵をよく使用する。演じているときにはどうしても気になってしまう他者の目や上手くやらなければという気持ちを解消するために、絵を描く作業は非常に役立つ。また絵のように視覚的にその場に存在しているものがあれば、見えない想像の世界に入りやすくもなる。
反対に、ドラマの中で表出したイメージや感情を描きながら紙の上におさめることで、心の整理にもなるし、気付かなかった点を観察できると考えられる。
今こうしてエレノアとのセッションを振り返ると、絵とドラマに現れていた象徴的なイメージやテーマが、どれほど多くを私に伝えていてくれたのかがよく分かる。エレノアの例でも示されたように、二つのモダリティを使うことで、個人の想像へアクセスする能力が増し、多面的に物事を見つめ、受入れる力もつくのではないだろうか。

 

“You and I, collaboration.”

 エレノアの最後の言葉である。私はエレノアとのセッションで、クライアントの提案するイメージに導かれ進むことを覚えた。その一瞬一瞬を、クライアントと共に呼吸をしてリズムを合わせることを学んだ。そして、私はクライエントとのコラボレーションの大切さを教えてもらった。

 


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