ドラマセラピーの説明のために、一つの素敵なお話をご紹介します。
4歳のある男の子がトラックにひかれてしまいました。
奇跡的にも少しけがをしただけで、男の子は助かりました。
しばらく入院しましたが、彼はすぐにおうちに戻ることができました。
おうちに戻ってからしばらくして、彼は「病院ごっこ」を始めました。
男の子のお母さんは、夕食のしたくどきで、とても忙しかったのですが、せがまれて、一緒に「病院ごっこ」をすることになりました。お母さんは、今までごっこ遊びなんてしたことなかったのにとびっくりしたようです。
内容は大抵、
男の子がお医者さんや看護士さん、そしてお父さん役で、お母さんが男の子の役でした。
お医者さんが、お母さんが演じる男の子に治療をする場面。
看護士さんが優しくトイレに連れて行ってくれる場面。
お父さんが、「ごめんね、お父さんは仕事に行ってくるからね」と、寂しがる男の子とバイバイして、病院を出て行く場面。
入院中お父さんが仕事で帰ってしまったのは二回しかなかったのに、お父さんが寂しそうに出て
行くそのシーンは、特に何度も繰り返したそうです。
お母さんが、はしょってしまったり、間違って再現したりすると、
男の子は怒ってしまうこともありました。
そしてお母さんに、どんなふうに演じてほしいのかを、かなり細かく指示したそうです。
男の子はその遊びを3週間に渡り、何度も繰り返しました。
そしてある時、
お医者さんの役になって、男の子を演じているお母さんに言いました。
「事故にあったとき、怖かった?」
お母さんは、「怖い」という言葉を、入院中から使わないようにしてきました。
けれども、男の子が演じるお医者さんは、何度も尋ね続けました。
そしてついに、お母さんが演じる男の子は「うん、怖かった」と言いました。
すると男の子は、とても満足した表情を見せ、病院ごっこをやめてしまいました。
しかし男の子はお母さんにこう言いました。
「ママ、僕に嘘ついたでしょ」
「どうして?ママは嘘なんてついてないよ」
お母さんは答えました。
男の子はまた言いました。
「ママは、嘘をついてた。だって、怖いって一度も言わなかったもん」
お母さんが、なぜ「怖かったね」という言葉を、事故後一度も使わないようにしてきたのか。
お母さんにも理由がありました。
「怖い」と言ってしまったら、
男の子に事故の瞬間を思い出させてしまうのではないかと心配していたのです。
お母さん自身もきっと、とても怖かったはずですが、それを見せてしまったら、男の子がもっと怖がると思っていたからです。
お母さんが「怖かった」と言うセリフを言ってから、男の子は、病院ごっこをパタリとやめてしまいました。
そして少しずつ、事故の恐怖を乗り越えていったそうです。
このお話を聞いた時、
これはまさにドラマセラピーだと思いました。
では、このごっこ遊びの中で、一体何が起きていたのでしょう?
男の子は、事故以来、自分の心にある本当に様々な、複雑な気持ちやを
お母さんに分かってほしかったはずです。
だからお母さんには、どう演じてほしいのかを、細かく指示したのでしょう。
特に「怖かったね」という言葉を、お母さんが言ってくれることで、言葉でうまく表現できなかった、事故のときの恐怖を、ちゃんと認めてほしかったのです。
そしてお母さん自身が「怖い」と言うことにより、「お母さんだって怖いんだ」と知ることは、男の子に安心感を与えてくれたはずです。
お母さんに、「恐怖を受け入れるお手本」そして「恐怖に押しつぶされないお手本」になってほしかったのです。
お母さんも怖かったのなら、僕が怖くても当然だ。
僕は怖がってもいいんだ。
恐怖があっても、その感情に押しつぶされたりしないんだ。
男の子は「病院ごっこ」の中でこの気持ちを手に入れたかったのです。
お母さんが恐怖を一緒に感じてくれることが、男の子には一番必要でした。
だから、お母さんが男の子役を演じなくてはならなかったのです。
また男の子は、自分に起きてしまったこの事故を、
監督の立場でコントロールし、
医者や父親を演じながら、
「恐怖に打ち勝つだけの強さ」や「守ってくれる存在」を自分に取り入れました。
そうすることで、「何が起きるか分からない人生の不安」や「意味が分からない恐怖」があっても、「それでも僕は十分にやっていけるんだ」と感じられるだけの体験をしていたのです。
このドラマを、男の子が一人で作ったのです。
心理療法の知識もない、小さな男の子が、
どうやったらこの大きなトラウマから立ち直ることができるのか、直感的に知っていたのです。
これが、私たち皆が持つ、「自分を癒す力」です。
子供は、ごっこ遊びの中演じることで、無意識のうちに問題を解決したり、葛藤を表現したり、物事を修正することができます。
ドラマは、私たちが生まれながら自然に持つ、何よりもパワフルな癒しの方法なのです。
でも、大人になるとごっこ遊びなんてしませんよね?
ドラマセラピーは、演劇という設定の中で、子供の遊びと同じような癒しを見つけることができる心理療法なのです。
ドラマセラピーは、演劇(ドラマ)の手法を使って、
主役のあなたの魅力を引き出し、
あなたの中に新しいドラマを作り上げる、
ドラマティックなセラピーです!!
●人生は台本なし、リハーサルなしのぶっつけ本番!だから失敗してしまうこともある。
→ 自分の行動パターンや無意識にやっているクセを、ドラマの中でチェック!改善したい行動や考え方を見つけ、練習し、変えていきます。
●持っている役割の数が少ないと、対応できる場面が少なくなってしまう。
→ 自分の中に、色々な表情を持つことは、様々な場面での対応力を鍛えることになります。自分以外の役割を演じてみると、普段は隠れていた自分が顔を出したり、できなかったことができるようになる。だから自分の幅がいつの間にか広がります!
●頭の中で考えるだけでは、行動は変わらない。
→ いくら「私は変わる!」と思ったところで、行動してみないと変わったことにはならない。でもなかなか新しい自分を出せないし、実際の生活でそれをやるのは無理があるものです。だから、まずはドラマの中で試してみるのです!行動を身につけていくと、少しずつ新しい自分が出せるようになっていきます。
ドラマセラピーをやると・・・
☆自分のドラマを、主役という立場だけでなく、演出家、脚本家、批評家、観客など、違う立場から多面的に観察できるようになります!!
だから、今まで気づかなかった自分の魅力を再発見!その魅力を活かす方法も見つけられます!
恥ずかしい?! だからドラマセラピーをやるんです!!
「ドラマセラピーって、演じるんでしょう?
そんなの恥ずかしくって・・・・」と思う方もいます。
ドラマセラピーのエクササイズは、「演じる」ことがメインです。慣れていない方や、人前で何かをするのが苦手という方が、尻込みするのは当然です。
でも、自分の気持ちを抑え込んで、無理に相手に合わせているときなど、あなたは自分が「演じていない」と言えますか?
実は、あなたが普段無意識にやっている「ドラマ」を、意識的にやってみるだけのことなんです。
自分の行動パターンが分からないまま、ぶっつけ本番で、人生のドラマを演じるほうが、本当はもっと勇気の必要な行動です。主役としての自分をよく知らずに、人と接している方が、もっと怖くないですか?
ドラマセラピーみたいな、ちょっとハードルの高いものに挑戦できたら、きっと自分を誇りに思えるようになります。そこまでして、「自分を変えたい!」と思うあなただから、素敵なドラマの主役になれるのです。